ファインチューナーの無かった頃のフロイドローズを知っているかい?そのサウンドは凄かった編
2019-05-15
今回はかなり古いフェルナンデスのFSTを徹底的に作業させて頂いた。お客様が昔弾かれていて最近カムバックの為に再登板する1オーナー物である。
当時ブラッドギルスに憧れて購入されたそうだ。
おそらく80年代にフェルナンデスがフロイドローズの正規代理店になった初期の頃のモデルではないかと思う。
なぜなら

ファインチューナー搭載以前のフロイドローズ。
FRT-3が搭載されているからだ。
今の若いギタリストはファインチューナーが付いていて当たり前だろうが
この初期のフロイドには付いていない。
E.ヴァンヘイレンが世に知れ渡りだした頃と同構造の元祖フロイドローズである。

まずはフレット交換から着手。
これがねぇ…驚きと言うか感心したと言うか。
今まで一番目にしてきたフェルナンデスは猫も杓子もエレキギター!だった80年代後半~90年代
の物が大半だったけどネックが厳しい…物が多かった。
具体的に言えば順反りました⇒ロッド締めました⇒ローフレット側は逆反り、ハイフレット側は順反り、
あぁ…波打ってしまったか…それでは一番波打ちの程度の緩いポイントでロッド調整は諦めて
他で何とかセッティングするか…
みたいな物が多かった。
今回はそれ以前のモデルだけにお預かり時の一番最初にネックをチェックさせて頂いた。
何と!クセが無いのよ…順反ってはいたがロッド締めても波打ちにならないのよ…
「何だ…バカ売れ⇒大量生産前は真面目に作ってたのかよ…」ってのが正直な感想。
もちろんこの個体は長い年月の保管状況が良かった事もうかがわれる。
したがって毎回苦労する指板修正はすんなりと進行出来た。

さて、ボディー側である。
フロイドのスタッドは木ネジ式。
そして6弦側が少し倒れている。

現行でも厚めのメイプルトップ等の硬いボディー材なら木ネジ式でも問題は無いが
今回はスタッド&アンカー式へ変更する。
ネジ頭マイナス溝が少しサビて形状もナメているので抜く際はマイナスドライバーは使わない。

国産のネックジョイントプレートがドンピシャのサイズだった。
ちなみにレスポールのテールピーススタッド等の太いマイナス溝にはネックジョイントプレートが
結構合う。フェンダーUSAのヴィンテージ寄りモデルのプレートは肉厚が薄め、
国産やアメスタ等は厚め。3種類の厚みのプレートを事あるごとに工具として使い分けています。

抜き取り完了。
6弦側は一度スタッド倒れ修理をした跡が見られる。

ちなみにPUザグリはハムのモデルと汎用の形状。

位置出ししてアンカー埋め込み完了。

現行フロイドローズのスタッドは木ネジとは違い細かいネジのピッチでスタッド高が微調整出来る。
が、ネジのピッチが細かいだけに少しのピッチズレで高さ調整時に引っ掛かりを感じる事が多い。
スタッド挿入前に粘度の高いシリコングリスを薄塗り(アンカー内)すると良い。
そのグリスの画像が無くてゴメンね。お客様の機械屋さんから分けてもらった業務用グリスなので
パッケージ等が無いんですよ…

分解時、ピックガードの固定ビスが緩かったので全ビス穴を埋め木+空け直す。
そして導電塗料塗布。

さて本題?のフロイドローズだ。

ファインチューナー搭載後、コピーモデルも含めて「持病」とも言えるのが
このアーム取り付け部。
上下のデルリンワッシャーが六角ナットと別々に回ってしまうので締めつけても締めつけても
すぐに緩んでしまうのである。
以後のモデルでアームホルダー的なパーツが付く様に進化はするがそのホルダーも
激緩みだった。
若い頃、自分はソレが相当ストレスだった。

今回は徹底的にヤルのだ。
だからアームはアーム、アームホルダー自体の緩みとは無縁の現行フロイドの物へ交換しようと思う。
ベースプレートのアーム差し込み穴を拡大してアームホルダーを付けるのだ!

普段フロイドコピー物で作業する機会が多いから今回も「はいはい、いつも通りねぇ~」
って感じで着工…

が、
マジでメイドイン独、マジでしっかり作られたフロイドは一筋縄で行かなかった…
か…硬い。
100Vのボール盤では全く歯が立たない…
汗だく(冷や汗含む)になりながら奮闘するも僅かに面取り程度しか削れない。
それでいてパワー掛けるとベースプレート自体の「たわみ」を感じる。
ここは無理すべきではないと判断。
プランBで何とかする事にした。

プランBはその昔、タバコを吸ってはいけない年頃の頃にタバコを吸いながら
バイク屋のおっちゃんに教えて頂いたアイデアだ。
六角ナットとデルリンワッシャーが別々に回るから緩みやすい⇒一体化とまではいかないまでも
六角とデルリンの間の「スベリ」を無くす。
つまり両者の間に座金ワッシャーを挟む。

組み込み完了!
くりくりくりくりくりくりくりアームを回してみるが六角ナットが緩む気配は無い。
現状でやれる加工ではこれがベストだろう。
いずれ緩む事はあるだろうがノーマル時の頻度とは比べ物にならない。
そう言えば数年前に実家付近へ立ち寄った際、件のバイク屋は無くなっていた。残念だ…

フレット打ち完了後、いつも通り電装系(PU以外)は全て入れ替えて組み込み完了!

危惧していたロックナット締め込み時のチューニングのズレだが金属加工精度がピンピンに
立っているこの頃のナットベースが良いのかテンションバーの高さ=如何に弦がロックナットに
密着するかをネチネチ調整したのが良かったのかきっちり弦を伸ばしてから
クランプを締め込み後、チューニングの狂いは酷い弦でもラック式チューナーで10セント以下に
収まった。
これならファインチューナーが無くとも十分使える。
まぁ#したら微妙な力加減で弦を引っ張って延ばすってな工夫程度は必要だが。

仮組みの段階で気付いた、いや、驚いたのだが普段耳慣れたフロイド付きギターとは
「鳴り、鳴り方」が違う。
文章で表現するのは難しいのだけれどもフロイド特有の金属的な高域は出ているものの
ボディーへベタ付け設定、スプリング5本張りのストラトに似た膨らみのある鳴りが出る…
この分厚い鉄製のサスティーンブロックのせいだと考えがちだがブラスや合金製の
サスティーンブロックをここまで厚みはないものの鉄製に交換すると普通は一層ソリッドな感じ=
金属的な冷たい高域が増すものだ。
なのにハーモニクスの広がり方を含めて何処かシンクロブリッジのストラト的な鳴りになった。

何で??って考えながらもセッティング出しで長時間弾いていたが思い当たる箇所としては
ファインチューナーが無いからこそのメリット、
サドル底面が全面でベースプレートに接地している事だ。
ファインチューナーが付いているとサドルが2ブロック構造になり弦をロックしている
後ろ側のブロックはベースプレートから必ず浮く。
一番弦に直結しているサドルの最重要部がブリッジのベースプレートから僅かながらも必ず浮く。
これこそが現代で言うところの「フロイド付いたギターの音」と呼ばれる鳴りの原因かもしれない。

もちろん今やヴィンテージ枠の年代のギターなので木材自体の「鳴り」もあるだろうが、
本当に良いギターに仕上がったと思う。
オーナー様にはこれからまたガンガン弾いてもらいたい。

ちなみに以前(2012年)にFRT-3についてブログを書いていたみたいだ。
http://tonegarage.blog52.fc2.com/blog-entry-112.html
書きながらFRT-3ってどんな特徴有ったっけ?と検索したら自分のブログがヒットした(笑)
トーンガレージの黎明期?まだ2名体制でやってた頃だな。懐かしい~
当時書いたブログのFRT-3はサスティーンブロックの底面=スプリングを挿す面がスラントして
いた様だが今回のブロック底面はフラット。どちらが古いのかは自分には分からない。
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